2007年10月27日

ネタバレ 「姑獲鳥(うぶめ)の夏」 登場人物とあらすじ、その結末

 「久遠寺医院 猟奇連続殺人事件を元にして書かれた小説はどうだった?」
 友人は僕の顔を見るなりそう言った。

 ── 先日読み終わったよ。なかなかすごい事件だったな。
しかし分かってみればシンプルな話を、どうして小説家ってのは、ああも複雑に書くのかねえ?

 僕がそう答えると、友人は苦笑した。

 「それが商売だからね。話が進むにつれて徐々に過去が明らかになっていくから、事件が順番通りに書かれていない。だから ──」

 ── それだよ。出来事が起きた順に書いてあれば、単純明快なのになあ。

 友人は暫く笑った後、手に持っていた数枚のレポート用紙をぱらぱらと捲りながら、
 「もし良かったら、ここに事件を時系列に並べたものと、関係者一覧表があるから読んでみるかい?」と言った。

 ── ありがとう。勿論、話の結末も書いてあるんだろう?

 友人は頷くと、僕に数枚の紙を渡した。
 以下がその内容である。   ◇

■登場人物

1)事件関係者

久遠寺 涼子(くおんじ りょうこ)
 久遠寺医院の長女。病弱。線の細い美女。顔は青白い。一度出産するも、子供が産めない体となる。
 幼少期の性的虐待と薬物投与により、多重人格者となった。二十八歳。

久遠寺 梗子(きょうこ)
 涼子の一つ下の妹。姉とよく似ている。自分は妊娠二十箇月だと信じており、体が弱っているため床に臥している。

久遠寺 牧朗(まきお)
 久遠寺梗子の夫。旧姓藤野。通称藤牧(ふじまき)。十一歳の時に母を亡くす。
 昭和16年夏、独逸に渡る。
 開戦の翌年(昭和17年)帰国。帝大医学部に進学。
 昭和20年に徴兵されるも終戦を迎え、復員。学位を修得して医師免除を取得。
 昭和25年、久遠寺の婿養子となる。

久遠寺 嘉親(よしちか)(久遠寺家当主。久遠寺医院院長。)
久遠寺 菊乃(きくの)(嘉親の妻。涼子、梗子の母。病院事務長。)
   ◇
内藤 赳雄(たけお)(医師見習い。十九歳の時、昭和17年頃に久遠寺医院に来る。後、住み込みで勤務。浅黒い精悍な顔つきの男。背が高い)

澤田 時蔵(久遠寺家使用人。昭和26年3月久遠寺家を辞める)
澤田 富子(時蔵の妻)
露子(時蔵の祖母。久遠寺家の女に攫われた我が子を取り返そうとして変死。持ち金を奪われる。その子(時蔵の父)は久遠寺家に育てられ、使用人となる)
梅本 常子(富子の遠縁の親戚)

戸田澄江(元久遠寺医院の看護婦。薬物中毒。変死)

菅野 博行(ひろゆき)(小児科医。以前久遠寺医院に勤め、涼子の主治医をしていた。涼子に性的虐待を加えていた疑いあり)


2)赤子誘拐事件の被害者

原澤伍一(板橋の左官屋。傷痍軍人。三十五歳。妻の名は小春)
氏名不詳(上十条の商事会社社員と妻)
氏名不詳(池袋のバーテン)


3)その他

中禅寺 秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)(通称京極堂。古本屋主、神主、祈とう師。元高等学校講師。三十歳台)
中禅寺 千鶴子(京極堂の妻。実家は京都の菓子司。美人)
中禅寺 敦子(京極堂の妹。稀譚社『稀譚月報』編集室(三階)勤務。美人。二十歳そこそこ。兄とは十歳違う)
金華の猫(京極堂の飼い猫。中国の金華山(きんかざん)産)
   ◇
関口 巽(たつみ)(売文の徒。元粘菌研究者。旧制高校で京極堂と同級。牧朗の一級下の後輩。三十歳台。仇名・隠花植物。父は貧乏な田舎教師。)
関口 雪絵(関口の妻。二十八、九歳。関口の二つ下。)
半次郎(巽の曽祖父。漁港の網元。)(半次郎の子(巽の祖父)は信心に入れあげたため散財した。)
   ◇
榎木津 礼二郎(えのきづ れいじろう)(旧華族。私立探偵、『薔薇十字探偵社』。牧朗と同級。関口の一級上の先輩。眉目秀麗。)
榎木津 総一郎(礼二郎の兄。商才あり)

安和 寅吉(やすかず とらきち)(榎木津の下で働いている)

木場 修太郎(きば しゅうたろう)(東京警視庁刑事。榎木津の幼馴染。酒豪)
青木(木場の部下)

里村 鉱市(監察医)

中村まこと編集長(稀譚社『近代文藝』編集室(二階)勤務)


■用語

姑獲鳥(こかくちょう)
中国の悪鬼。別名、夜行遊女、天帝少女。羽毛をまとうと鳥に、脱ぐと女怪になる。女児を攫って養女にする。

産女(うぶめ)
お産で死んだ女の無念が形になったもの。人に子供を預ける、抱かせに来る。

無頭児
先天的に脳とそれを包む頭蓋骨が欠損している嬰児。そっくり頭部が欠落し、丁度蛙のように見える。

ダチュラ
朝鮮朝顔として知られる茄子科の植物。花、葉、種子に向精神物質が含まれており、摂取すると譫妄状態を引き起こす。
媚薬の原料としても使われ、ダチュラが効いている間にした淫らな行為の記憶は残らない。
ダチュラに含まれる向精神アルカロイドは次の三つ。ヒヨスピン、ヒヨスチアミン、アトロピン。

ホムンクルス
錬金術でいうところの人造人間。
作り方は、密閉した硝子瓶に人の精液をたっぷりと満たし、馬の体温と同じ40度の条件で寝かせる。
すると段々透き通った人間の形になる。これを新鮮な血液で培養すると、一回り小さいが人間と似たものが産まれる。
そう信じられていたが、勿論この方法では人造人間は作れない。

屍蝋(しろう)
死体が鹸化して、蝋細工のようになった状態。

■粗筋

◆大正末期
 久遠寺菊乃、子供を出産するも無頭児だったため、実母により赤子を殺される。
 菊乃は赤子(後の内藤)を攫う。それが元で内藤の母は死亡。贖罪のため菊乃は匿名で、内藤に養育費を援助。

◆昭和14年夏
 藤野が久遠寺梗子を見初める。

◆昭和15年9月15日
 藤野、中禅寺に勧められて恋文を書く。
同年9月16日
 関口が久遠寺涼子に、藤野の手紙を渡す。宛名には「久遠寺京子」と書かれていた。
同年9月18日
 藤野の下へ、久遠寺からの返事を老人(菅野)が届けに来る。
 藤野は、手紙に書かれていた逢引場所、「子授け銀杏」に向かう。
 涼子は手紙を届けてくれた関口が来るものと信じていたが、現れたのは藤野だった。
同年12月31日
 藤野、久遠寺涼子の妊娠を書簡にて知る。

◆昭和16年2月
 藤野は久遠寺梗子との結婚の許しを請うため両親に会うも、断られる。
 菅野が姿を消す。
同年3月
 家人、涼子が妊娠六箇月と知る。但し梗子にはそれを伏せる。
同年4月
 藤野、渡独。
同年夏
 涼子、無頭児を出産する。すぐに実母菊乃によってその子は殺される。
 涼子、その日の内に人の赤子を攫う。
同年9月
 涼子、赤子を攫う。
同年11月
 涼子、三度、人の赤子を攫う。
同年12月8日
 開戦。

◆昭和17年
 藤野、独逸での事故により生殖器の一部を喪失する。後、帰国。帝大医学部に進学。

◆昭和20年
 終戦。藤野、復員。

◆昭和25年6月5日
 藤野牧朗は梗子と入籍し、久遠寺の婿養子となる。
同年7月
 牧朗、妻の記憶障害を疑う。久遠寺医院から赤子失踪。
同年8月
 牧朗、妻の狂気に懊悩する。体外受精の研究を始める。
 梗子、内藤を誘う。
同年9月
 再び久遠寺医院から赤子失踪。
同年11月
 三度、久遠寺医院から赤子失踪。

◆昭和26年1月8日深夜から9日未明にかけて
 牧朗、体外受精の方法を完成させる。
 午前零時前、梗子と内藤の情事の場面に、夫が帰ってくる。牧朗と梗子が喧嘩。
 梗子、牧朗の脇腹を果物ナイフで刺す。
 妻から逃れるため牧朗は書庫に入り、内側から鍵をかける。
 書庫内にて牧朗は、義姉涼子に石で撲殺される。死因は脳挫傷。頭蓋骨陥没。
 梗子、未明にかけて部屋を片付け血をふき取る。朝、梗子から犯行の記憶と、内藤との情事の記憶が失われていた。
同年1月9日
 午後、内藤と時蔵が、牧朗が籠もりし部屋の扉を破る。梗子が一番に中に入る。しかし部屋の中には牧朗の遺体はない物とされた。
 そこに涼子が来る。時蔵に扉を直させる。
 梗子は気を失い二、三日床に就いた。そして妊娠三箇月と診断される。
 母は出産に反対するが、涼子が産ませるようにと説得する。
 涼子はベッドを書庫に入れさせ、梗子をそこに寝かせることにする。
同年某月
 牧朗が失踪したとの噂が流れる。
   ◇
◆昭和27年8月
1日目
 関口、京極堂に会う。二十箇月妊娠し続けることは可能かを訊く。
 京極堂に久遠寺牧朗失踪について話すと、礼二郎に会うよう言われる。坂にて眩暈を起こす。

2日目
 関口、稀譚社にて中村編集長と話す。後、榎木津に会う。
 榎木津の下へ久遠寺涼子が依頼に来る。依頼内容は牧朗の消息探し。明日、午後一時に依頼者宅へ行く約束。

3日目
 関口、榎木津、敦子が、詳しく話を聞くために久遠寺医院に行く。
 久遠寺家の人々に会う。梗子の腹は膨れており、妊娠しているように見えた。
 牧朗消失現場に行く。部屋は密室であり、外から鍵をかける事は不可能であった。また床には血痕があった。

4日目
 関口、京極堂と共に牧朗の日記を読む。
 久遠寺医院から赤子が消えた事件について、木場から聞く。関口、木場と共に時蔵や、赤子失踪事件の被害者に話を聞く。
 関口、木場に頼み、久遠寺家への捜査を明日1日待ってもらう。
 関口、涼子を訪ねる。明日、久遠寺家の呪いを解くと約束する。

5日目
 夜8時
 関口、京極堂らと共に久遠寺家に向かう。
 関係者全員が、事件現場に集められる。
 梗子の容態が急変し、腹が割け大量に出血する。
 牧朗の死体が、彼が消失した書庫から発見される。

6日目
 関口、昨夜から失神していたが、午前11時に目覚める。
 警察が関係者の聴取をする。
 その間に涼子が行方不明となる。
 関口、涼子を探すため、書庫の奥の部屋に向かう。
 そこで赤子を攫った涼子と出会う。
 そこに菊乃が来る。彼女は涼子と言い争った末、気が付くと菊乃の頸に大型のメスが突き刺さっていた。
 警察と京極堂が来る。
 木場も駆けつけるが、涼子は警官に体当たりして逃走。新館に入り、赤子を抱えたまま上へのぼっていく。
 関口も後を追い三階に辿り着く。そこに彼女が居た。
 「かあさん」関口がそう言うと、涼子は赤子を差し出した。
 涼子は、爆弾の所為で丁度吹き抜けのように空いていた建物の床穴から、ゆらりと落下していった。

 夜、梗子もまた死亡した。体は傷み、長く持つ状態ではなかった。

涼子が死んだ事件から3日目
 牧朗の研究ノートは京極堂によって燃やされた。
   ◇

 ── しかし牧朗というのも可哀相な男だな。結婚して半年後には死ぬわけだからさ。
彼が好きな女と過ごした期間はほんの僅かじゃないか。

 「さあ、どうだろうね。
たとえ短い間だったとはいえ結婚前には恋人同士として付き合ったわけだし、数ヶ月とはいえ新婚生活も味わったんだから、きっと幸せだっただろうよ。」

 ── 彼が付き合っていたのは姉の涼子だろ? 結婚してから暫くして当の梗子は内藤と通じるわけだろ? どこが幸せなんだ?

 「彼の頭の中には、結婚前の「梗子」との逢瀬や、二人で暮らした一緒の時間があるんだ。
好きな人との思い出があるだけで十分じゃないか。」

 ── 随分残酷な話だな。梗子には恋人同士だった記憶がないんだからさ。
なのに旦那の方は、結婚前の思い出話をするわけだ。恋文だの、子供はどうなっただの。
おまけに結婚してから指一本触れない夫との生活なんて、妻の立場からすれば耐えられないんじゃないか。

 「思い出は脳内で作られるんだからね。彼女が幸せになる気があったなら、いくらでも思い出は作れただろうよ。」

 しばし沈黙があった。

 ── 残酷だな。目の前の相手を見ずに、ただ自分の脳内で都合の良い現実を作り出せ、と。

 「誰も本当の現実なんて見ちゃいない。恋人を理想化するのは世の常だろう。
夫婦揃ってお互いに、自分の理想を相手に押し付けて。二人とも、何にも見てないんだよ。」

 ── 見たくなかったんだろうな。でも、それでも現実は否応無しに目に飛び込んできた。
狂気は、自分の理想と、現実との間に相違を感じた瞬間、産まれる。
だから、現実と理想の差を全く認識する事が出来ないなら、ヒステリーは起きないだろう。
彼女には現実が見えてたんだな、認識できなくてもさ。だからヒスを起こすわけだ。

 「そうだな。で、不思議なことに、人ってのは、見たくないものばかり見えるんだよ、全く。
それに夫の方も相当な変わり者だよ。新妻を放って置いて、夜な夜な研究ばかりしてたんだからね。」

 ── 人は見たいものしか見ないさ。もし梗子が夫の不倫を疑ったなら、それは妻の「夫を疑いたい」という意思の表れだろう。
でもその意思の底には、もっと別の理由が潜んでいる。

 「たとえば、自分への劣等感とかか?
自分みたいな人間が愛される筈がないという思いが、逆に、夫は別の人を愛しているという「妄想」を作り出すとか?」

 僕は少し微笑んでから、
 ── そうかも知れないなあ。他にも色々あると思うよ。梗子は、牧朗も内藤も愛してなかったかも知れないなあ。
しかしそれも分からないよ。人間の心は複雑で単純だから。

以下二人の会話は暫く続いたが、ひとまず筆を置くこととした。



いや〜、これ書くの、ほんっとに大変だったよ〜。
まず読み終わるまでに数日間。
そしてこれ書くのは2日がかりで、軽く10時間はかかったよ(笑)。本を読み返したり、文章をまとめたりで。
でも久しぶりに、テンション上げてブログ書けて楽しかったっす。
話も後半戦に突入すると、先が気になって毎日読みましたよ〜。
推理物を時系列というか、事件が起きた順に並べるのが好きみたいで、時々しちゃうんだよな〜。

それから間違いがあったら済みません。
ラベル:小説
posted by 赤石物語集 at 15:46| Comment(10) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とてもおもしろかった!
Posted by ekwos at 2011年12月31日 16:51
ekwosさん

訪問とコメントありがとうございます^^
つたないブログにコメントが頂けて嬉しいです^^
Posted by 管理人 at 2012年01月08日 11:01
友人との会話がわざとらしくて気持ち悪いです
自己陶酔しすぎだと感じました
Posted by at 2013年01月30日 00:24
わざわざコメントを下さり、ありがとうございます。
Posted by 管理人 at 2013年02月06日 20:49
友人との…というコメントがありましたが、それはわざとそうゆう書き方をしたのかと思います
お陰で、この作品への他の人の解釈が分かりやすく伝わってきたし作品の内容の続きのようで受け入れやすかったです
私は小説ではなく映画からでしたが、他の京極さんの作品は小説からでした、映画では分かりづらい部分も上手くまとめられていて感謝です
Posted by yuuu at 2013年06月29日 21:46
yuuuさん

訪問ありがとうございます。
コメントに気付くのが遅くてすみません。
当記事が何かのお役に立てたようで、嬉しいです^^
Posted by 管理人 at 2013年07月18日 19:22
面白かったです!
最近、漫画で単行本が売られてますよね?姑獲鳥の夏。

それを買おうか迷ってました。

こちらの記事を読んで、その漫画も読んでみよう!というきになりました。
Posted by どんこ at 2013年08月07日 21:15
どんこさん

コメントと訪問ありがとうございます。
漫画化されてるのを初めて知りました!

当記事が参考になって嬉しいです^^
Posted by 管理人 at 2013年08月25日 12:37
ドラマ版(?)を見て、よくわからなかったのですが、
こちらの記事を読ませていただき、すっきりしました!

ありがとうございました^^
Posted by ひよこ at 2013年12月07日 18:08
ひよこさん

当ブログがお役に立てたようで、何よりです。
訪問ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2014年03月08日 21:48
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